開業獣医師Chamoの愚痴と本音

開業獣医師の愚痴と本音……その他いろいろ

副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)

  いろいろと忙しくて更新できていませんでした(;^_^A

 ブログを集客に使う先生方は頻繫に更新しているようですが、私はそんな気も体力もありません……

 それでも、時間がとれて気が向いたときにボチボチ書いていきますね。

 

 

  それでは表題から

 

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 新患でいらしたある飼い主さんの開口一番

 

ステロイドは使わないで下さい!」

 

「え?……まだ診てもいないんですけど……」

 

 実際にあったやり取りです(;^_^A

 

 

今回は、世の中で、人の医療でも獣医療でも悪の権化と化している薬剤。ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)について触れてみたいと思います。

 

 と言っても、副腎皮質ホルモン剤については医師、獣医師、薬剤師、はたまた一般のブロガーの方々が、事詳しく説明されている記事が、それはそれは数多く存在しているので、私は言及を避けます。

 

 てか、疾病の種類にもよるし、効能、使用方、副作用の出方や種類…そんなの個人差、個体差もあるし、時と場合によって変わるに決まってるじゃん!!  

 まず、そこのところをご理解下さい。

 

 特に、一般ブロガーの方が書いている記事の中には、極端なものがあります。そのような偏った方向からのみ考察した記事をうのみにしておられる方のいかに多い事か……

 まあ、医療側には責任は無い。とは言いませんがステロイド=悪者 という考え方が少なからず、一般の方が思っているイメージではないでしょうか。

 

 ステロイドは万能薬です。抗炎症、抗ショック、抗アレルギー etc・・・・・・

 

 因みに私は幼少の頃、酷い喘息に悩まされていました。この世にステロイド薬が無かったら死んでいたと思います。

 

 現在、私は個人的に自己免疫疾患の猫を飼っていますが、その仔もステロイドがなければ生きていけません。

 

 皮膚科領域でも使用されます。勿論、漫然と長期間の使用は、特殊な症例を除いて、避けるべきですが、用途用法によっては欠かせない薬剤です。

 

 特に獣医療においては安価であるという事も重要な要素になります。他の免疫抑制剤、例えばシクロスポリンなどに比べ、非常に安い薬価です。

 

 獣医皮膚科領域において、ステロイド以外の痒み止め、例えば抗ヒスタミン、抗アレルギー薬などは、ほとんど効果がありません。しかも高価です。それでも効けばラッキーというレベルです。

 

 飼い主さんとしては、何とか痒みを緩和してあげたい。でも、悪の権化であるステロイドは使いたくない。そこで我々はあまり効かないと分かっていても抗ヒスタミンや抗アレルギー薬を提案します。

 勿論、根治療法の為の検査やシャンプー療法、食事療法、生活習慣についても指導しますが、取りあえず痒みを抑えるための内服を処方します。

 

 しかしながら前述の通り、痒みに対してこの手の薬が劇的に効く症例は限られている為、次の手段として、ステロイドではない免疫抑制剤などを提案します。例えば、シクロスポリンやアポキルなどです。

 しかしながら、これらの薬剤は非常に高価な為、投薬をためらう飼い主さんが多くいます。

 そこで、結局、元の治療の繰り返しになるのですが、何が何でも、ステロイドは使わない方が良い!などと書いている無知な輩のおかげで、簡単に改善する疾病でも重篤になってしまうケースまで目につきます。

 

 人医療も獣医用も専門家の仕事です。基本的に我々は病気を治す。もしくは病気とうまく付き合う為に投薬や助言を行います。

 確かに、問題のある処方をされる先生がいるのかもしれません。ですが、基本的には副作用が多発するような処方は、特殊な疾患を除いて、医師なら、獣医師なら当然考えて処方するに決まっています。

 

 それでも、ステロイドに限らず、他の薬剤についても、ネットで調べた情報を元に、治療薬剤をオーナー側から提示される事があります。

 

 以前はそういった飼い主さんとも真摯に話し合い、時間をかけて納得頂いていましたが、正直バカバカしくなりました。

 なぜかって? その方にとっての正義はネットであり、目の前の獣医師の言葉ではないからです。

 

 勿論、ネットには私達がしらない情報もあるし、その中には役に立つことも多く含まれています。かくいう私も、多くの専門知識をネットから得ています。

 しかしながら、間違った意見や事柄が発信されている事もご理解ください。

 

 特に、民間療法については、全ての人や動物に対して有効なわけではありません。私は、民間療法を否定しているわけではありません。何事もケースバイケースです。

 

 

 結論として

 ステロイドは身体の救世主。ただ、使い方によっては諸刃の剣となりますが、通常の使用でビクビクすることはありません。

 この薬で命を繋げている人や動物も大勢います。

 脱ステロイドは、特に獣医皮膚科領域にとっては課題ですが、ステロイドについて、宗教的なまでに否定的な記事は賛同できません。その記事を書いている人は臨床家ですか? その方が責任をとってくれるのですか?

 正しい情報を見極めて下さい。分らなければ専門家に聞いて下さい。切にお願いします。

 

 参考までに、人の癌代替え治療についての記事がありましたので貼っておきます。

wired.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動物病院の料金(ワクチン&フィラリア)について その2

 前回、予防関係(フィラリア予防やワクチン)の料金が相場に比べ極端に安い病院には、安い理由がある。ビジネスとしては賢い方法です。 というお話をしました。

 今回は、もっと凄いビジネスを展開する先生、経営者について少し触れてみたいと思います。

 

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写真は我が家の飼い猫です。本文とは関係ありません(;^_^A

 

 

 さて、その前にまず、混合ワクチンや狂犬病ワクチンは毎年接種しないといけないのか? 本当にフィラリアの予防は必要なのか? という疑問があるかと思いますが、これについては、機会を設けてくわしく説明したいと思います。話がややこしくなってしまうので、今回は割愛させていただきますね。

 

 

 さて本題。前回、予防関係は大きな利益を生むという話をしましたが、もう一つ付け加えるなら、誰でも(獣医師なら)簡単に短時間で大量の患者さんをさばけます。言ってしまえば知識も経験も乏しく、何の設備がなくても、針とシリンジがあれば可能です。

 

 メッチャ効率の良いお仕事です。

 

 通常の診療、例えば、病院で30分間、1件の患者さんに対して診察や相談をして、結果、診察料だけで800円、下手したら無料。なんて事はどこの病院でも、よくある事だと思いますが、我々はそれについて愚痴を言う事はあまりありません(モンスターペイジェントを除く)なぜなら、それも仕事ですから。また、数十分以上かけて検査をしたり処置をして、頭と体力を使う事もしばしばです。内容にもよりますが、時間当たりの労働対価は決して高いとは言えません。

 ところがワクチンを打つだけなら、ものの5分で終わります。フィラリア薬を渡すだけなら数十秒です。しかも利益率が高い。おまけに、打つだけなら、たいした経験も設備も要らないのです。

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 そうです。そこに目をつける病院が出て来たのです(さすがです! 普通は思ってもやりません)ぶっちゃけ、昔からそのような病院はありましたが、ここ最近では、企業経営として目をつける先生(獣医師以外も)が多く現れてきました。

それについて少し解説していきます。

 

 動物病院や動物関連会社の経営者(経営者は別に獣医でなくても構いません)が狂犬病予防接種やフィラリア予防の時期、つまり春にスタッフやアルバイトを使って全国安行をさせるのです。

 

 最近ではホームセンターやペットショップと契約して注射を打ち、フィラリア薬を売ってまわります。そして数十分~数時間後には別の会場に移動していくようです。

 

 そうです、これは主に行政が行う狂犬病の集合注射をパクったやり方です。ただ、行政の場合は近隣の先生方や地域の獣医師会などにお願いし、何か問題がおこった時は近隣の病院で対応するという手はずになっています。

 まあ、その集合注射にもいろいろと問題があるのですが、これは少しでも接種率を上げようという役所、しいては厚生労働省からの委託事業です(東京都のように、この制度を廃止して、狂犬病予防接種は全て近隣の動物病院での接種に切り替えた地域もあります)

 では、個人経営者や企業が行う集合注射はいいのか? 法的には問題ありません。ぶっちゃけやったもん勝ちです。以前は勝手に公園や路上で行っていた強者もいましたが、行政からの指導もあり、今ではホームセンターなどの敷地内で行う為、違法ではありません。

 

 それ以外にも、他県のペットショップなどと契約して、その時期だけ予防注射やフィラリア予防薬、ノミダニ予防薬を処方しに行くという業務形態をとる会社(病院)もあります。

 

 では何か問題なのか?……やりっぱなしなんです(+o+) 打つだけ打って、さっさと次の会場に移動してしまいます。もしくは帰ってしまいます。接種後に体調異変が起きようが、お構いなしです。

 

 我々は通常の診療において、狂犬病ワクチンや混合ワクチン、またはフィラリアの注射で訪れた飼い主さんに対して、特に、接種が初めて(当院初診の場合も含む)の場合は、出来るだけ午前中、午後なら早い時間に来院するようお話しています。

 副作用等が発現した場合の対処を考えてのことです。場合によっては出直して頂く事もあります。これは全て安全の為の対応です。

 実際、緊急を要する副作用が発現する事も稀にあります。

 

 集合注射の場合、帰ってから具合が悪くなって、再びそこを訪れても、そこはただのホームセンターやペットショップです(そのような場所で予防接種を受ける場合、毎日診療している動物病院が店内に存在しているか確認してください。存在していれば、有事の対処はしてもらえるはずです)

 

 接種直後にショックが起きた場合、対処できる先生がいるのでしょうか?(新卒や臨床経験の乏しい先生ばかりのチームだったら……)ここではあまり詳しい事は書けませんが……

 そこでは接種後の登録狂犬病は接種及び登録が義務づけられています)も、しませんし、登録の説明すらしない先生もいます。中には混合ワクチンまで同時接種して、血液検査無しフィラリア薬を処方(血液検査の必要な要指示薬です)していく業者までいます。

 

 料金は相場より安いのが普通です。集客の為に近隣の動物病院より値段を下げています。飼い主さんにとってはありがたい事でしょう。

 

 因みに、行政が設定している料金は狂犬病予防接種¥2950 新規登録料¥3000 注射済票¥550 です。(いずれも税込み)

 一般の動物病院はこれと同額か少し高いところが多いと思います。 

  フィラリア検査は、その内容(直接、集中、抗原)によって異なりますが、採血料を含めておおよそ¥1600~3000 の範囲ではないかと思います。

 予防薬は種類や体重によって異なりますので、詳しい金額は控えますが、小型犬の最低料金(フィラリア予防のみの薬)は1回分¥650~1000弱が多いのでははないでしょうか?

 犬の混合ワクチンも種類によって異なりますが、¥6500~10000くらいかな。

 

  当然、ホームセンターやペットショップなどで行う場合はもっと安いです。

 

 一般の病院でも、相場より極端に安いところがあります。そのような病院はたいていホームページで料金を告知しています(料金の表示は駄目だと聞いています。でも、インターネット上は規制が無い? みたいです)

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 動物病院の料金(ワクチン&フィラリア)について その1を参照して下さい

https://blog.hatena.ne.jp/vetchamo/vetchamo.hateblo.jp/edit?entry=10257846132634286010

 

 

 まあ、安い事はありがたい事だとおもいますが、安い理由はある(全てと言っているわけではありません)のです。

 

 それにしても、地域にもよりますが、フィラリア予防薬は検査してから処方してもらいたいものです。

 当院では、つい1昨日前にも、フィラリア感染犬の新患がありました。

 ↓ ↓ ↓

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 メッチャ動くのでピントが合ってません(;^_^A

 赤いのは赤血球で、透明な紐状のものが、ミクロフィラリアです。

 

 

 以下はフィラリア予防薬の使用説明書です

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このように、全てのフィラリア薬に、血液検査をしてからの投与と記されています。

基本的に、よほどの事由が無い限り、我々は能書に従った投薬を行う義務があります。

 

 

 

私の病院は、たまにペットショップから依頼を受けて、子犬の検診やワクチン接種に伺う事がある(院内と同じ救急処置は出来ない事を了承の上)のですが、まだ新卒や経験の乏しい先生の場合には、必ず先輩獣医師を同行させています。

 ワクチンを打つだけなら誰でもできますが、問題は何かあった時の対処です。

 

 

 ※そのような診療を行う病院や会社が全て、能書を無視したり、やりっぱなしだと言っているわけではありません。誤解無きようお願いします。これはあくまで私個人の愚痴です。

 

 それはそれは、ものすごい収益でしょう。短時間で目玉の飛び出るような収益を上げて消えていきます(おいしいとこだけを大量に持って行くのですから当然です)

 他県のペットショップやホームセンターにやってきて、チラシなどを使って集客し、短時間で、一番効率良く利益を上げていく……当然、近隣には動物病院が点在しています。獣医さんは優しいから、誰も喧嘩はしませんが、これがヤクザやさんの世界だったら戦争です(笑)

 実際、法的に訴えてもどうにもなりませんから、近隣の先生は泣き寝入りです。なので、やったもん勝ちなのです。

 

 ところがこれは飼い主さんからみたらありがたい事なのです。病院に行かなくても、長い時間待たなくても、全ての事がいっぺんに出来て、しかも料金が安い……私が普通の飼い主だったら行くかもしれません(;^_^

 

 たしかに……注射を打つだけ、予防薬を処方するだけなら誰にでもできます。それでも我々は万が一の事態に対処できるよう、知識と経験、そして設備を整えて日々の診療にあたっているのですがねえ……

 

 以前、そこで狂犬病予防接種後に体調を崩した犬が救急でやって来た事があります。飼い主さん曰く、ここで接種後、具合悪くなったらどうしたらいいか? と聞いたところ、近隣の先生には連絡している。と言われたとの事……聞いてねーよ!! いつやってるのかも知らねーし! 

 よくあるケースでは、狂犬病は? と聞くと、今年は集合でやりましたという答え。もしやと思い、登録は? と聞くと、登録ってなんですか? というお答え……やっぱり……それ、役所の集合注射じゃないですよ。

 てか、いーかげんにしろよ! と心の中で叫びましたが、飼い主さんに罪はありません。

 そういえばそんな事言っていたかも? という方もいましたので、全ての業者が登録の説明を怠っているとは思いませんが、その業者は少なくとも登録はしてくれません

 他人が打った予防接種の証明書をもって、別の病院が登録に行く事はできないので、そのような場所で接種した場合は、その証明書を持って、飼い主さん自らが、平日に役所に出向いて新規、もしくは継続の登録をする必要があります(1年毎の更新です) ちゃんと安い理由はあるのです。

 

 また別の飼い主さんは、いつもは検査してからじゃないとフィラリアの薬を貰えなかったのに、あそこは検査無しで貰えて、待ち時間もなく費用も安かったと……前の病院同様、おたくも検査するんですね! 検査は必要ないので薬だけ下さい! と言われた事もあります……

 おい!……だから、フィラリア薬は要指示薬なの! 能書に書いてあるんだって! 

検査してから処方しろよ!(ちなみに地域にもよりますが、私が開業している地域では未だにフィラリアの感染犬がいます) 我々は基本、能書通りに獣医療を行う義務があります。 どうしても能書通りに行えない場合に限り、その説明をしなければなりません。そして納得頂いてから能書外治療をします。

 まあね……フィラリア検査って面倒な割には利益が低いですからね……

 

  ※そのような行為を行う病院や会社が全て、能書を無視したり、やりっぱなしだと言っているわけではありません。誤解無きようお願いします。これはあくまで私個人の愚痴です。

 

 と、長々と書いてしまいましたが、私個人の意見としては、多くの開業の先生方が言われている程、彼等が酷い事をしているとは思いません。

 なぜなら、決めるのはあくまで飼い主さんです。そういった病院も、企業も、単にビジネスとして利益の多い方法を選択しているだけです。彼等が法を犯しているわけではありません。

 世の中は情報化社会です。情報を集め、自分が良いと思った方を選択すれば良いと思います。 

 

 私が書いているのはあくまで個人的な愚痴です。そう、彼等のおかげで私の病院は予防益が下がりました。愚痴ぐらい許してくださいね(;^_^

 

 

 最後に

 一旦臨床を離れたが、できる範囲で臨床獣医師としてまた働きたい。または開業やその他の理由で、一時的にまとまったお金が欲しい。など、いろいろな理由があると思いますが、そういった先生にとっては、予防の仕事は低リスク高リターンだと思います。  別に勧めはしませんが。

 でも、新卒の先生は……夢を追い、志をもって獣医師になったのではないですか? その仕事がやりたかったのですか? まあ大きなお世話ですね。

 

 それにしても大変な時代になったものです。昔は気心のしれた飼い主さんと世間話しながら診療したものですが、今は態度がでかい、とか、料金が高かったとか、いろいろネットで叩かれます……

 

 今だったら私は絶対開業なんてしませんね……獣医さんも飼い主さんも変わったのです……寂しい限りですが……

 

 ビジネスじゃ絶対に勝てない……

 

正直、早く辞めたいなぁ……そう思う今日この頃です。

 

 

 次回は何書こうかなぁ……獣医師会について? 訴えられたらヤだからやめとこう(;^_^A

 

 薬についてかいてみようかなあ~

 

 最後まで私のくだらない愚痴にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

動物病院の料金(ワクチン&フィラリア)について その1

  以前、別のサイトで開業獣医師の本音的な事を書いた事がありましたが、仕事が忙しく、更新できていませんでした。

 最近は多少来院数も減少し、空き時間も増えててきましたので、またボチボチと書いてみたいと思います。

 そもそも、何故ブログを書くのか? ストレス解消です。共感してもらおうと思っているわけではありません。ここで愚痴や本音を吐き出して、また仕事に戻る活力を得られれば……でもまあ、誰かに聞いてもらいたかったりするわけです。

 匿名だから言える事ってありますよね。獣医さんやお医者さんの中には、ブログを書いて集客に結び付けようとする人もいますが、私はそんな面倒な事出来ません。自分の為に初めてみようと思ってます。ですがもし、私の記事が少しでも飼い主さんの参考になれば幸いです。

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 それではタイトルから。

 動物病院は料金が決まっていません。そもそもサービス業の扱いになるようなので、皆で話し合って料金を決めたら、独占禁止法に抵触します。それ故、各々の動物病院によって料金がまちまちなのです。

 今回はその中でも、一番目立つ部分(どこの病院で受けても同じ)である、ワクチンやフィラリア薬などの予防料金についてお話しようと思います。

 

 ところで最近、動物病院多いなって思いませんか? 歯医者さん並み? とまではいかなくても、もう乱立状態(少なくとも私の地域は)です。

 ちなみに歯医者さんはコンビニの数よりも多いそうです。競争が大変ですね(;^_^A 歯医者さんといえば数年前、子供の受験時に知ったのですが、私立大学の歯学部はほとんどが偏差値40~50台前半…中には30台なんて大学もあります。

 大丈夫なんでしょうか? 勿論、国家試験はありますし、歯医者さんの場合、技術がものを言う仕事ですので、考えすぎかもしれませんが、ちょっとビックリしました。それにしても国立大学と私立大学の差が激しすぎますね。偏差値60越えの国立大学を出ても、40の私立大学を出ても歯医者さんは歯医者さんですからね……

 幸いにして獣医学部は私立も国立も大差ありません。東大や北大など70越えという人間離れした偏差値を叩きだしてくる大学もありますが…

 危惧するは、例の加計学園獣医学部です。約50年間に渡って獣医学部の新設を拒み、教授陣の不足等から国公立大学の統廃合をしてきたのに、今この少子化の時代に国立大学5校分の学生数に匹敵する私立獣医学部を許可するとは……まあそれについては面倒なので議論を省きますが、くれぐれも学力の低下は避けてほしいところです。

 国家試験なんてそれなりに勉強すれば誰でも受かりますから、あまりたいしたハードルにはなりません。

 て、ほんとはそんな事どうでもいいのですが、偏差値が下がれば、社会的な地位も下がり収入も減少する。更に卒業生が増え(私立大学の殆どの学生は公務員や大動物ではなく小動物臨床を希望)動物病院の新規開院が増える……既に市場は飽和してるんですけど……

 我々のような小さな動物病院の経営者にとっては脅威です。

 では、飼い主さんにとってはどうなのか? 動物病院が増えれば、価格競争によって値段が下がり、サービスも向上する。

 と思うのは間違いです。価格競争によって値段が下がるのは目に見える部分だけです。具体的にはワクチンやフィラリア薬といった分かりやすい部分です。我々の業界にも相場というものがあります。地域によっては、いえほとんどの地域では獣医師会によって予防関連の料金はアバウトにですが設定されています。ぶっちゃけ独占禁止法違反なのですが、まあそのあたりの事は機会があったら書いてみたいと思います。

 動物病院が増えた事による競争から、まず最初は1件の病院が、目に見える部分の料金を下げ、集客をはかってきます。新規開業でいきなりの大安値をつけてくる先生もいらっしゃいます。

 正直彼等はあまりに安い料金を設定してくるので、近隣の病院も、値下げに踏み切らざるを得ません。

 これは患者さん、つまり飼い主さんにとっては喜ばしいことですね。ですが病院側としては大幅に利益が損なわれます。元々、動物病院の経営はワクチンやフィラリア予防の収益に依存してきました。なぜなら、診療報酬が安いからです。

 え? そうなの? と思うかも知れませんが安いんです。なぜ安いのか?  細々と説明するのは面倒なので、ざっくり言うと、世間から見た獣医師は所詮動物のお医者さんなのです。人を診る医師とは違います。全ての方がそうではありませんが、犬猫に人間並みの費用はかけられないというのが正直なところでしょう。だから(内容にもよりますが)人並みの料金設定にはしていません。

 ところが実際の医療費コストは人間並みにかかるのです。動物病院の開業となると設備にお金がかかります。血液検査機器、レントゲン、エコー、外科器具、麻酔器や各種モニター、etc…それらは人の医療と同じものですが、動物用に改良したものはむしろ高いです。

 それでも我々は、人の診療報酬並みの料金設定はしていません(一部の動物病院を除く)そんな事をしたら、ほんとうに、お金持ちしか掛かれない病院になってしまいます。

 よって一般診療報酬は安いのです。特に手術は。例えば犬の避妊手術、血液検査をして血管確保、そして鎮静してから気管挿管して吸入麻酔。さらにモニター、人工呼吸器などを用意して手術に臨みます。開腹して卵巣、子宮を摘出し、再び縫合。点滴や抗生物質等を処置して一晩入院…で、体重や年齢等にもよりますが3万5千円~4万円程(若い小型犬種)です。それでも、何かあったら訴えられるかも知れません…ちなみに知り合いの医師は獣医療の手術や処置の安さに驚いていました(メッチャ高い病院も中にはあります)

 なにが言いたいのかというと、治療や手術にかかる費用を安く設定(これでも高くはないのです)できるのは、ある程度、予防(ワクチンやフィラリア)によって得られる利益が大きかったからと言っても過言ではありません。

 ところが最近、動物病院の数が増えた事による、病院1件あたりの来院数の減少、さらには予防関係の値下げによる収益の減少が重なり、赤字経営となって閉院する病院も出てきました。

 で、病院側の対策としては……そうです。仕方ないので見えない部分の費用を上げるのです。

 昨今の人件費高騰や検査機器の価格上昇にも追い打ちをかけられます……結果、予防に頼らない方法で利益を確保しなければならなくなりました。

 通常の診察料やどこの病院でも行う避妊や去勢手術は見える部分ですので値上げは不可能です。一番手っ取り早いのは……そう、検査や入院です。過剰医療とまでは言いませんが……まあその傾向はあると思います。

 

 余談ですが、特に最近の若い先生は検査が大好きです(経営とは関係無しに)

 CTやMRIなどを持っているお金持ちの病院も、えっ? それもCTやるんだ……って感じでとにかく検査が多いです。

 実際それは間違いではありません。教科書的に診断していくとなると、非常に多くの検査が必要です。人間と違って動物の言葉は分りませんので、どうしても検査に頼る事は多くなります。ですが、そこをなんとか経験によって多少なりともカバーしてきたのですが、なかなかそうは言っていられなくなりました。

 そんな訳で検査については、一部の悪質な過剰検査を除き、現在ではどこの病院でも多くなっていると思います。それは、予防関係の値下げによるものばかりとは限りません。

 当院でも、面どうくさがらずに必要な検査はするよう代診の先生には指示しています(あくまで必要な検査です)ただ、検査については、もし訴訟に発展する様な事になった場合、していなかった事が問題になります。ですので、時代は変わったのだということでしょうか。

 

 それにしても最近は、ちょっと下痢をしただけでも血液検査にエコー、レントゲンなどフル検査。少し肝酵素が上昇しているからと肝生検。ちょっとした感染症で何日も入院…などなど、そこまでやるか? という強者まで出てきました。私が思うに、ワクチンやフィラリア予防が相場に比べ極端に安い病院ほどその傾向があるようです。まあそうでしょう。彼等の目的は安い予防で集客し、いざ病気になったら、しっかり取る! ビジネスですね。

 そのような病院はだいたい処置料や手術費も高い傾向にあります。予防で利益を上げられませんので当然でしょう。と、否定的な意見を述べましたが、本来、医療はそういうものです。予防は安くします。でも病気になったらお金がかかりますよ。って事です。

 今までがおかしかったのかも知れません。ですが、飼い主さんからしたら、予防薬やワクチンが安い=良心的だから他の診療費も安いだろう。という感覚が身についていますので、自分のペットに行われている治療が実は高額かもしれない? なんて事はわかりません。同じ病気でも個々に状態や侵攻は違いますからね。

 

 つまり、見える部分を安くして集客し、見えない部分で利益を上げる! ビジネスマンですね~ 獣医師というよりは優秀なビジネスマンですね。

 

 そんな訳で、当院は患者さんも減ったし収入も減ったというわけです。しかし最近、当院を離れた患者さんがまたボチボチ戻ってきています。訳をきくと、今掛かっている病院は検査も多いし費用の面でキツイと言うのです。でも、予防は安いからそこでやっていると…なんだかなあ……という感じです。

 

 しかし、最近の飼い主さんの中には、いくら費用が掛かってもいいから、しっかり検査して欲しいと言う人も増えていますので、そういった人は見た目にも立派な病院(設備も凄いと思われる)の先生に診てもらうというのも、いいかもしれません。

 因みに私は、自分の飼い犬や飼い猫に対してもやるだろう検査や治療は進めますが、自分だったらやらないな~と思う事は一応説明はしますが、強くは進めていません。

 

 締めとして、これからの獣医療は病院が飽和し、予防で食えなくなった分、診療報酬(処置料や手術料)が少なからず上昇していくだろうと思われます。飼い主の皆さんには出来るだけ保険に加入する事をお勧めいたします。あとは、見た目の料金ではなく、信頼できるホームドクターを見つける事が最善です。

 

 ※あくまで私個人の見解です。予防関係が安い病院が全て、そのような病院だと言っているわけではありません。本当に良心的な病院もあるかと思いますので、あしからず。

 

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 次回は……さらにビジネスに徹した、経営者の鏡! のようなお仕事をされている先生方について書いてみようかと思います。……殺されるかな(;^_^A